ケアギバーストーリー

病める時も、健やかなるときも: フリオのケアギバーとして

  • フリオ:上衣腫と診断された脳腫瘍患者

    リズ:フリオの妻でありケアギバー(ケアを提供する人)

2022年のはじめ、 フリオとリズは 友人の40歳の誕生日を祝うためにタークス:カイコス諸島へ冒険旅行をしました。 沖合の透明なターコイズブルーの水中を泳いでいる途中、フリオは焦点発作 (Focal Seizure) が起きる予兆を感じました。そばにいた友達が異変に気づき、ビーチに居るリズに手を振りました。 彼女は、緊急用のアチバンの錠剤を持って水中に飛び込みました。

 

現地のERでのCTスキャンで、以前のスキャンと変化がないことが確認されたため、彼らはかかりつけの医療チームの許可を得た上で休暇を続けました。 日中の暑い時間帯は休ませるようにしました。「これが私たちの現実よ。」リズはそう話します。「私たちは人生を歩みながら必要に応じて休息をとり調整しているの。がんに人生を支配されないようにすることとフリオに無理をさせないようにすることとのバランスをとるように心がけているわ。それは疲れるけれど、彼は私にとって最高のパートナーだから。」


リズとフリオの恋の行方

リズとフリオの関係は友人から始まりました。海軍の一員として、2008年の西太平洋での任務でUSSロナルド・レーガンに乗船したことがきっかけでした。F/A-18の 整備士として駐屯していたカリフォルニア州リモアへ戻ると2人はいつも一緒に行動していました。 リズはカリスマ的でエネルギッシュなフリオに恋をしました。自分の主張を伝えるためにサンダル履きで後ろ向きに道を走るようなタイプ。フリオが海軍との契約を延長し、シチリア島へ移った時リズも同行しました。2人はほぼ4年間海外で暮らしました。

「それは私の海軍キャリアにおけるハイライトだった。なぜならその土地の文化に浸ることができたから。」とフリオは話します。任期中の大晦日にフリオはベネチアでリズにプロポーズをしました。 「彼女に出会えた事は、宝くじの大当たりを引き当てたようなこと。僕たちは友達として始まり、友達以上の関係になった。運命だったんだ」 2人は結婚後新居を隅から隅まで改築し、よく一緒に旅行に行きました。2人で訪れた国は20カ国以上。フリオは海外駐在でさらに多くの国を訪れました。「私たちは世界の人々がどのように生きているかを見るのが好きなんだ。特に普段様々な国の食料品店や市場に行って、何がおいしいかを見に行くんだ。」

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フリオのケアギバーとしてリズのステップアップ

リズとフリオは2013年に結婚の誓いを立ててから多くのことが変わりました。「診断される前まではケアギバーとは深刻な状況にある人の世話をするために雇われた人だと思っていたの。」とリズは言いました。「多くの場合家族は常にその人の近くにいる。そして自分が愛する人の世話をしたいと思うもの。私の役割は2020年から現在に至るまで大きく変化したわ。」

リズのケアギバーのタスクは以下のようなものです。

  • フリオを病院へ送る。
  • 診察時のメモ書き
  • 保険に関する問題への対応
  • 彼のスケジュールを管理する。
  • 食事が炎症を引き起こしより大きな問題を引き起こさないようにする。
  • 足を洗って転倒のリスクを減らす。

「私は必要に応じて彼の代わりに話をし、彼の負担を軽減するように努めているの。特に彼は言葉の問題や情報処理の遅れがあるので」とリズは説明します。「彼は多くの情報に圧倒されてしまうんです。」

11月、フリオが理解力と発話力の不足から診察時の会話に参加できなかったことがありました。リズはこのまま知らない人に脳の手術を任せるか、それとも危険な旅をしてカリフォルニアに戻り、自分たちが知っていて信頼しているチームと一緒に手術を受けるか決断しなければならなかったのです。その時リズは特にケアギバーとしての重みを感じたと言います。

「それぞれのシナリオを頭の中で何度も繰り返し長所と短所を考えそして泣いたわ。」とリズは語ります。「涙が枯れるまで。」

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薬の管理の難しさ

リズはフリオが毎日飲んでいる薬を管理しています。しかし、薬の管理には複雑な問題があります。

フリオの発作用の薬を切らしてしまったことにリズは知らずに、薬を補充をしていませんでした。その結果、その日彼は発作用の薬を飲まず、仕事中に発作を起こし三日間入院することになりました。

「私は決して医療のプロではないので、ミスはするし、全てが完璧にできるわけでない。」とリズは言いました。「私は二度とそのようなミスを犯さない。今は薬はトリプルチェックをするようにしているわ。私はこの大きな間違いを犯し、そのせいで彼を病院送りにしてしまった。ひどいと思ったわ。でもそんなことで彼のために薬の管理をやめようとは思わなかった。訓練された医療従事者ではないので、13種類の薬を扱えばときにはそういうことも起こるでしょう。」

この経験はリズにとって貴重な教訓となり、彼女は自分の経験を他のケアギバーの皆と共有し、間違いを犯すのは自分だけではないことを伝えています。

「自分に優しくするのは大変なことです。」とリズは説明します。「正直なところ、この経験を周りの人と共有する事で、このような失敗をしたことがあるのは自分だけではないとわかったの。だからこそ伝えたい。ケアギバーとして自分のすることが全て完璧であるとは限らないのだと、自分自身に思いやりを持って欲しいの。」

ケアギバーとしてのサポート探し

リズにとってセルフケアのための時間を作ることは仕事とケアの間でかなり困難なことです。

「私はフリオが最高の医療を受けられるように、そして充実して幸せになれるようにできる事は何でもしているわ。」とリズは説明します。「今私たちの生活の全てが脳腫瘍で埋まってしまっているかのように感じてしまう。でも他のことをする余地もあるから、その時間を確保するように心がけているわ。」

短時間のピラティスや他の運動をする事は有益なセルフケアとなっています。短時間でできることを見つけることで、リズは少し1人の時間を持てるようになりました。

「私は瞑想が得意ではない。」とリズは言います。「何か体を動かすことで、脳内を占めている他の部分をシャットアウトし、気を紛らわせることができているわ。」

夫妻は NBTSNational Brain Tumor Society) 主催の ”Brain Tumor Support Conversations” を含む3つの脳腫瘍支援団体にも積極的に参加をしています。

「たとえアドバイスがなくても、自分の抱えている問題を正確に理解している人たちと話す事は本当に助けになる。」とリズは言います。「たとえ脳腫瘍の種類や年齢、住んでいる地域が違っても私たちが対処している事は同じだから。」

リズとフリオは共に11日を大切にし、将来どんなことがあっても2人の愛が2人を支えてくれると信じています。

「私はフィクサーです」とリズは言います。「フリオが脳腫瘍である事は治せない、その事実を受け入れるのは本当に難しい。私は彼の健康を維持し、治療や薬物療法、診察など、物事を前進させるために全力を尽くしている。それでも、彼の体の中にある、いつか彼の命を縮めるかもしれないものを取り除くことはできない。それが私たちの現実なの。」

出典: 2023 National Brain tumor Society, In Sickness and In Health: Liz and Julio Adapt After Cancer Diagnosis, https://braintumor.org/in-sickness-and-in-health-liz-and-julio-adapt-after-cancer-diagnosis/, 2023/12/22

翻訳:島津智子